金藤 純子

 

情報価値の創造により ショッピングセンター(SC)の 課題解決をリードする

Leaders Interview

株式会社リゾーム専務取締役(兼 SCトレンド研究所所長) 金藤 純子(かねとう じゅんこ)

今回のLeaders interviewは、株式会社リゾームの金藤純子専務取締役(兼、SCトレンド研究所所長)です。トレンド分析によって、ショッピングセンター(SC)業界の活性化を主導されてきた金藤氏に、2019年4月19日(月)、リゾーム本社(岡山県岡山市)にてお話を伺いました。

岡山県岡山市に本社を構えるリゾーム(代表取締役:中山博光氏)は、売上分析・顧客分析のシステムにより、ショッピングセンター(以下SC)業界において、高いシェアを誇っておられます。SC業界の課題解決(ソリューション)のための製品・サービスを提供されているリゾームの具体的な特色をお聞かせください。

 当社は、全国に約3,200を数えるSCの情報活用を通じて、SCやショップの未来と繁栄を支えたい、と日々努力を重ねています。 日本のSCは、1970年以降、郊外居住地の開発とともに発展しましたが、都心回帰や新業態の開発が進んでいます。現在進行している少子高齢化という若年人口の減少と高齢者や単独世帯の増加は、今後40年間長期に続きます。新たな動きとして、スマホによるモバイルショッピングが急速に拡大し、シェアリングエコノミーの普及など、消費行動も変化しています。流通業を取り巻く環境は、一定ではなく、常に変化し続けています。当社はそうした変化に敏感に、かつ柔軟に対応しながら、独自性のある商品やサービスを自社開発し、お客様にソリューションをご提案しています。 課題解決の柱は、大きく分けて二軸あります。ひとつは、データ分析を主軸とした商品で「戦略会議NEXT」です。もうひとつは対策を主軸とする商品群で、「SC GATE(エスシーゲート)」が代表的な独自商品です。 まず、戦略会議NEXTは、ポイントカードの会員属性と購買実績等、さまざまなデータを集め分析する「顧客分析システム」と、ショップ管理システムのデータやSCとショップの契約情報を利用して分析する「デベロッパーマネジメントシステム」(売上・賃料に関する経営分析のシステム)の2つの分析システムで、20年のロングセラー商品です。 次に、SC GATEは、日本全国のSCや百貨店のショップ・ブランドの出退店動向が、時系列でわかる日本唯一のデータベースです。これは、SCの規模や立地、ショップの業種構成などを検索できるサービスです。このデータベースに登録されているのは、SC・百貨店・ECモールなど約5,000施設、ショップ・ブランドは約240,000店に上ります。SC GATEは、リーシング(不動産を賃貸するSCにショップを誘致する営業活動)に関する企画立案やショップ探しを効率的に行う業務サポートとして役立っています。 当社は、このように、情報分析を担う戦略会議NEXTから、今後の対策を練る際の力となるSC GATEまで、一貫したソリューションをお客様に提供しています。

リゾームのお客様であるSCをめぐる現状とは、どのようなものでしょうか。

 全国のSCやショップの活性化を目的に当社が設立したシンクタンク、SCトレンド研究所の調べでは、2018年3月末時点で、ショップの出退店をカウントできるSC数は2,560でした。前年よりは、63施設増えています。しかし、総ショップ数は前年より9,219店も減少しています。12の大業種を調べると、インテリア・寝具・家電と、GMS(総合スーパー)は前年よりショップ数が増加していますが、これらの2業種以外は減少しています。特に、ファッションは▲2,701店と大きく減少し、そのなかでもレディスが▲2,547店と退店数が著しいです。 消費者の立場から考えてみると、昨今、ECサイトや数あるファストファッションから、低コストで可愛い洋服が手軽に手に入りますよね。わざわざレディスの服をSCに買いに行く機会は激減しているでしょう。 少し過去を振り返ると、男女雇用機会均等法が施行した1986年当時は、四大卒の女性はたったの15%でしたが、現在は60%なんですね。女性はますます忙しくなっています。しかも、未婚女性が増えて、晩婚化がどんどん進んでいます。ファッション以外にも自己表現の手段は多様化し、SNSで時空を超えたつながり感や承認欲求が充たされています。加えて長く続くデフレで消費控えも起きています。 そうした時代では、20代女性をはじめ、異性を意識したレディス・ブランドに対する女性たちの関心は大きく薄れてきているのではないでしょうか。自分の貴重な時間をわざわざ買い物のために使う気持ちも、以前ほどは沸かないでしょう。着心地のよい、お手頃でカジュアルな服を購入すれば、それだけで充分満足する女性は少なくないのかもしれません。

とても興味深いお話しです。では、データサイエンティストが、さまざまなデータを前にしたときには、どのようなことが大切になるのでしょうか。

 それは事実の解釈です。 先にお話したように、SCが増えているのにショップは減っている、という数字の事実を見たとき、重要なのは、その事実をどう解釈することができるのか、またどう解釈すべきなのか、ということです。データサイエンティストにとって、事実をどう解釈するかが非常に重要である、ということは強調したいところです。

では、事実を解釈する際のコツというものはあるのでしょうか。

 まず、目の前にあるグラフや数字を見てみましょう。マイナスになっていたり、プラスになっていたり、数字が上下に振れていますよね。「なぜこうなっているのだろう」と疑問をもつことが、解釈の際にとても大切になります。さらに、そこで止めずに、そこからデータをもっともっと深く掘り下げていきます。ファッションブランドの退店が顕著だとして、男女別、年齢別、地域別など、さまざまな点に注意を払って、「あたり」をつけることも必要です。 また、SCだけのデータを見るのでは不十分です。地方から都市への人口移動はどうなっているか、単身世帯がいつ頃から増えてきているのか、逆に、平均世帯人員はいつ頃から減ってきているのか、高学歴化はどのような影響を男女の意識に与えているのか、等々さまざまな事象を「多角的に見る」ことも解釈の際に大切になってきます。

ところで、最近では、モノを売ることからコトを売ることへの転換が進んでいる、とよく言われます。このようなトレ ンドについて、どう思われますか。

 おっしゃるとおり、SCやショップは、ただモノを売るだけの場ではありません。SCやショップの「世界観」を感じてもらうことが重要となっています。たとえば本を買うだけではなく、そこでコーヒーを飲みながらくつろげたり、観葉植物やインテリアを楽しんだりと書店も居心地の良い時間と空間を提供する場になっています。五感に訴える照明や香りも大切です。 他には、女性が昼間からワインを楽しめるようなフードホールの登場、洋服だけを売っていたショップがインテリア雑貨やスポーツ体験を併設するなど、「業種の多角化」というトレンドも見られます。 SCが単にモノを売るだけの場ではなく、一緒にエクサイズしたり、親子で楽しく遊んだり、いろいろな人たちと交流したりする場として生まれ変わってきたのです。こうした環境演出をはじめ、ショップの世界観を表現し、さまざまな工夫を凝らした「舞台装置」がどんどん作られるようになってきています。

最後に、本学経営学部で学ぶ学生たちに期待することを一言お願いできれば幸いです。

 データを読むということは、データサイエンティストの「フィルターを通して、事実を解釈する」ということ。尊敬するSCトレンド研究所顧問から、私はこのように教えていただきました。 世の中はこれからもっとダイナミックに変化していきます。よく鳥の目と虫の目といいますが、学生のみなさんには、鳥の目すなわち広い視野も持ってほしいと思います。最初は思いつきでもいいですが、それで終わるのではなく、事実をみて、疑問をもち、解釈し、それを自分の考えとして整理でき、他者にわかりやすく、きちんとストーリーとして伝えるチカラが求められています。データサイエンティストは「ストーリーテラー」になるべきです。 若いみなさんは自由でいいのです。好奇心をもって、外部の変化を素直に受け止めてください。「なぜこうなんだろう」と疑問を持つことから、すべてが始まります。固くなったオトナのアタマを変えることを期待したいですね。

お忙しい中,ありがとうございました。


金藤 純子(かねとう・じゅんこ)株式会社リゾーム 専務取締役 ・SC トレンド研究所 所長 神戸大学法学部を卒業後、株式会社JTB に入社。関西営業本部情報企画室、マーケティング室主任研究員として、データベースマーケティング、調査事業、店舗指導に携わる。1999年株式会社リゾームに入社、2007年より専務取締役。流通小売業のマーケティング、CRMに関する調査、コンサルティングを担当。SCデベロッパーと専門店の業務課題について、経営情報、顧客情報の戦略的活用を提案。出退店データベース『SC GATE』は2012年の企画段階から担当し、トレンド分析によるSC 活性化を推進する。2004年SC 経営士取得(12期生)。

※ 所属、役職等は、取材当時のものです。

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