岡﨑 浩樹

目指すは専門店なみのクオリティー
商品価値の最大化を
未来型市場という発想で
実現する

Leaders Interview

株式会社エブリイ
岡﨑 浩樹(おかざき ひろき)

今回のLeaders Interviewは、広島、岡山、香川でスーパーマーケット事業を展開する株式会社エブリイの岡﨑浩樹社長です。店舗過剰状態にあるといわれるスーパーマーケット市場で、17年売上伸長を記録するエブリイ。
その躍進において、マーケティングやデータ分析がどのように活かされているのか、お話を伺ってきました。

はじめに、他のスーパーマーケットにはないエブリイ独自の特徴や強みについて教えてください。

 当社は、食の総合プロデュースを目指すエブリイホーミイグループのスーパーマーケット事業を担っております。現在当社は、広島、岡山、香川の各県下に39店舗の直営スーパーを展開しており、日本に新しい流通の形を作ることで「日本に類のないスーパーマーケット」を目指しています。
 当社の独自戦略のポイントは徹底した鮮度追求です。本当に美味しくて鮮度の良いものを提供するために、各店の青果、鮮魚の売り場担当者が毎日市場に行き、実際に自分の目で確かめたものを買い付けています。加えて「欠品は最大の悪」であるというスーパーマーケットの常識を破り、「売り切れご免」によって当日売り切りを目指し、翌朝また新鮮な商品を仕入れることで商品の鮮度を高めます。また、売り切れご免により在庫や廃棄が低減されることから価格を安く押さえることができます。
 当社では画一的なお店づくりでなく、個店主義という考え方に基づくお店づくりを行っています。それゆえ商品構成や陳列、惣菜の味付けだけでなく価格設定までもが店舗によって異なっています。また、商品の鮮度だけではなく、鮮度のあるスタッフが対面販売を行うことで売り場がまるで市場のように活気づき、さらに店内調理を行うことでワンランク上の専門店なみのクオリティを目指しています。

次に、エブリイの経営においてマーケティングの役割や大切さをどのようにお考えでしょうか。

 売り切れご免、対面販売の営業スタイルでは、売れ筋商品の予測が非常に重要であり、品揃えや売り場、価格の変更などをタイムリーにかつフレキシブルに行う必要があります。
 具体的には、お客様動向、売れ筋商品、他社動向、トレンドなどのデータをリアルタイムで分析し、瞬時にスタッフがお客様のニーズを把握することで、お客様に喜んでいただく品揃えや売り場づくり、価格設定を実現しています。お客様の満足度を向上させることが、最終的に売上、利益を向上させることにつながっていきます。マーケティングは当社の独自戦略の根幹を支えています。

近年、企業経営のみならず社会のあらゆるシーンでデータに基づいた判断が重要視されています。エブリイの経営において、データ分析はどのように位置づけられているでしょうか。また、実際にそれが重要な役割を果たしたケースがあれば教えてください。

 当社がお客様から大きなご支持をいただいているのは、データの分析を行い、仮説(PLAN)を立て、仮説に基づいて実行(DO)し、検証(CHECK)を行い、そして再度チャレンジ(ACTION)していくPDCA のマネジメントサイクルがしっかり機能しているからだと思います。当社でデータ分析が大きな役割を果たしている代表例として、販売データ分析によるマーケティング戦略、そして経営指標データ分析による財務戦略があります。さらに、最近では当社の新たな取り組みにおいてもデータ分析が重要な役割を果たしています。
1. 販売データ分析によるマーケティング戦略
  当社は現在、1時間毎に店舗別、部門別、商品別の販売データがリアルタイムで把握できるようになっています。主な分析のセグメントは、曜日回り、休日要因、天候、時間帯などです。分析の結果に基づき販売計画を立て、昨年の実績を超えるため、よりお客様にご支持いただける売り場作りに努めています。昨年の自分達を超えることが、スタッフのモチベーションアップに大いにつながっています。また、販売データは全店舗分がリアルタイムで閲覧できるので、各店舗は他店舗の実績と比べながら競争をすることになります。これもスタッフのモチベーションアップの要因となっています。
商品の仕入れや新商品の企画を行っている商品部においては、販売データを分析して、毎日、毎月の売れ筋商品を把握しています。このデータ分析に基づいて年間、月間の商品戦略を策定しています。販促を行っている営業企画部では、販売データ分析をチラシへの売れ筋商品の掲載に活用しており、また地域別来店客数のデータに基づいて重点エリアを設定し、チラシの配布数などの地域別の販促に努めています。加えて人口分布、世帯分布、年齢分布、購買層などのセグメントでエリア別マーケティングを展開しています。システム部では、販売データに基づいて、非生鮮の自動発注システムを稼働させ、発注業務の効率化を進めています。
2. 経営指標データ分析による財務戦略
  経営指標のデータは、経営のかじ取りにとって最も重要であると考えています。経営指標で最も重要な指標である総資産利益率(ROA: Return On Assets)を中心に毎月モニタリングを実施しています。データ分析を行い、問題点を見出し、原因を追究、そして改善策を実施しています。ROA は収益性と資本効率性の指標データであり、収益体質、資本の効率性、安全性などを総合的に判断しています。まさに企業の健康診断のデータとして大いに活用しています。
3. データ分析を活用した新たな取り組み
  現在当社が取り組んでいる「産地開拓による新しい流通の創造」や「(一般に価値がないといわれている)B、C 級品に新たな価値の創造」についても、産地情報のデータや生産者データ、生産品データを大変有用な情報として活用しています。このデータを分析して当社の新分野開発担当が、積極的に産地開拓を展開しており、生産者とお客様そして流通がウィン・ウィンの関係になるように努めています。
  エブリイホーミイグループは現在、こうしたデータをグループの各店舗や各飲食店が端末を使って確認し、そして欲しい商品についてはセリに参加して発注できるシステムを開発中です。オンラインでデータを積極的に活用することにより産地と店舗とをつなぐ未来型市場(名称‥みらいマルシェ)を創設することで、「商品価値の最大化」を目指しています。

ところで、岡﨑社長は大学時代での学びで大切なこと、さらに今の大学生に求められていることはどのようなことだと考えられますか?

 私の学生時代に学んだ大切なことについて少しお話をさせていただきます。私は中学高校と野球に熱中してきました。特に高校は野球漬けの毎日だったので、大学に入学したときは少し野球から距離をおきたいと思い、特に何もせず野球から離れて過ごしていました。しかし入学から3ケ月ぐらいたった頃、このまま目的もなく学生生活を過ごしていれば本当にダメになると強い危機感を持ちました。 
  そこで、もう一度野球をやろうと決め、すぐ大学の準硬式野球部に入部しました。その大学は中高一貫校をもつ野球が非常に強い大学だったので、ほかの部員には絶対負けない練習をしようと心に誓いました。4年間、練習後に毎回大学のトレーニング室で筋力トレーニングを行うなど、他の部員に負けない努力をしてきました。その結果、ライバルが多いなかレギュラーの正捕手となることができました。そこで学んだのが、目標を決めて努力し続けることの重要性です。 大学生の皆さまには、自分の目標、言いかえれば夢を持ち、それに対して一歩一歩努力を積み重ねていただきたいと思います。
  また、私からお伝えしたいことがもう一つあります。私は大学卒業後、大手の経営コンサルタント会社に就職しました。同期は非常に高学歴で優秀な人材が揃っており、早い段階から多くの同期が活躍していました。そうしたなか、私の仕事は、新規先の社長様のアポを取ることでした。一日200 件のアポの電話をしましたが、なかなかアポが取れず本当に苦労しました。また同期に対する焦りもありました。そこでただ漫然と電話をするのをやめ、会話の進め方やしゃべり方などを自分自身で工夫してみると徐々に成果が上がり始め、やがて社内で「アポが取れるすごい新入社員がいる」と大きな評判となりました。結果として、史上最年少で支店長になり、3年連続最優秀賞を受賞することができました。 この経験から、仕事は工夫することで無限の可能性がある、つまり「仕事の価値は自分が決める」といったことに気づきました。学生の皆さまに置き換えれば、「授業の価値は自分で決める」といったことだと思います。皆さまは、なりたい自分になれる無限の可能性を持っておられます。本当に目標に向かって頑張っていただきたいと思います。

最後に、私ども岡山理科大学経営学部は、マーケティングとデータサイエンスの教育に重点をおく、新しい学びの形を創り上げていきたいと考えています。岡﨑社長からこの新しい経営学部への期待、または注文があれば、ぜひお聞かせください。

 岡山理科大学経営学部は、理系大学の経営学部として、文系的領域のマーケティングと理系的領域のデータサイエンスが学べる本当に素晴らしいチャレンジをされておられます。経営学は、特にマーケティングの領域は文系であるとの常識を打ち破られ、理系大学で経営学部を開設されたことは本当に画期的なことであると思っています。
  岡山理科大学とは、昨年の暮れに当社初のGMS(総合スーパー)業態であるエブリイOkanaka津高のマーケティングを山口ゼミの皆さまを中心に一緒に取り組みさせていただきました(以下、津高プロジェクト)。その取り組みを通じて、岡山理科大学の学生の皆さまの柔軟で斬新な発想力と企画力に本当に驚き、そこで提案されたアイデアはエブリイOkanaka津高で導入させていただいています(たとえば、キッズを対象にした農園や料理教室、地域の皆様を対象としたブースの活用等)。この津高プロジェクトを通じて、学生の皆さまの無限の可能性を感じ、皆さまから多くのことを教えていただきました。津高プロジェクトでの成果は今でも当社の大きな財産となっています。
  津高プロジェクトにおいて、学生の皆さまが事前にマーケットリサーチを行い、SWOT 分析、3C 分析、マーケティングの4P の手法をフルに使い、課題解決に取り組まれているのを見て大変驚くとともに、知識に対する吸収力は本当に素晴らしいと感じました。そうした状況で今年4月に経営学部を開設され、本当に自分事のようにうれしく感じています。
  近年、産業構造が大きく変わる中、新たなビジネスモデルが多く輩出されていますが、将来のビジネスモデルを考えそして形にしていくのは、将来のビジネスパーソンである学生の皆さまであると思っています。経営学部には新たなビジネスパーソンを育てるインキュベーター的な役割を果たしていただいたいと思っています。また、今回カリキュラムのなかにある「課題解決型ラボ」で実践されておられるように、ただ単に知識を習得する場としてだけはなく、ぜひとも津高プロジェクトのような実践の場を通じて、企業・地域との連携を強化して地域社会に貢献できるようなダイナミックな活動を強く期待しています。

お忙しいなか,ありがとうございました。


岡﨑 浩樹(おかざき・ひろき) https://www.everyhomey.com/
株式会社エブリイ 代表取締役
株式会社エブリイホーミイホールディングス取締役副社長 ほか
1979年広島県生まれ。英数学館高等学校、関西学院大学を卒業後、2001年東証一部上場のコンサルティング会社に入社。入社5年目に全国8支店のうち、最年少支店長に抜擢。支店を3年連続最優秀業績支店に導く。 2007年株式会社ホーミイダイニングに入社、外食事業部本部長としてビュッフェレストラン「ワールドビュッフェ」業態を立ち上げるなど外食事業の基盤を構築。2013年株式会社エブリイ本庄店店長・商品部第三業務統括バイヤー、2014年常務取締役経営企画部長、2016年代表取締役社長に就任。

※ 所属、役職等は、取材当時のものです。

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