新免國夫

出でよ
市民データサイエンティスト

データに臆せず向かう態度が
地方の会社や地域を
押し上げていく

Leaders Interview

一般社団法人 データ クレイドル 代表理事
新免 國夫(しんめんくにお)

今回のLeaders interviewは、民間組織の立場からオープンデータ、ビッグデータの活用による地域活性化に取り組む、一般社団法人データクレイドル代表理事の新免國夫(しんめん くにお)さんです。「地域における地域による地域のためのオープンデータ活用」を目標に掲げ、公共データサイエンティストの育成にも取り組まれる新免代表理事に、これからの時代におけるデータ活用の重要性と、そこで求められる素養についてご意見をうかがってきました。

まず初めに、データクレイドルさんの事業はどういったものかをお教えいただけますか。

 「クレイドル」とは「ゆりかご」のことで、「データではぐくむ未来」と銘打って、オープンデータやビッグデータの活用推進により、地域データサイエンティストの育成や地域の活性化を図っています。もともとオープンデータやビッグデータに興味をもっていたのですが、ちょうど倉敷市さんが計画・実施する連携事業の募集があり、これに参画する形で、2015年10月に、一般社団法人として、データに起因する事業を始めたわけです。行政の提供するデータ(オープンデータ)と社会や企業活動の中で発生するデータを結びつけることにとどまらず、データそのものの収集や得られたデータをコンテンツとして可視化する方法も開発・提供しています。
 また、IoT、AI、ロボットにデータは欠かせないことから、これらを対象としたデータの活用にもさまざまな提案を行っています。そして、最も大きな目的は、これらを通じて、データを扱える人、データを活かす人、データに意識をもてる人をつくることです。データ利活用も国・首都圏がリードして始まったことではありますが、データには首都圏も地方もない、地方だからこそ可能なデータ活用もある、という視点も大いに取り入れています。官と民の間をつなぎ、データで地方を活性化させる、こういった社団法人は、なかなか他にはないと思います。

データは、なぜ、いま、そして、これからの社会に重要なのでしょうか。また、マーケティング分野における役割もあれば、教えてください。

 まず、オープンデータ。これは、主として政府や自治体などが収集・公開する人口や事業所・企業、消費などの統計データで、地域を知る貴重なデータであり、ビジネスの基盤になるものです。広域で、偏りのないデータですが、収集には手間や時間がかかり、民間ではなかなか集めにくいものです。しかし、いま、これらのデータが整備され、インターネットなどを通じて誰でも自由に入手し、利用・再配布できるようになってきました。企業活動や地域活動に、これを利用しない手はありません。
 次に、組織が独自でもつデータです。自らの課題に即して収集され、組織の活動に必要なデータということになります。集めたデータを見ることで傾向を把握したり、明らかになった問題に対する戦略を練ったりと、いまは、データを基にしない意思決定はないといってよいでしょう。ここに、先に述べたオープンデータを合体させることで、さらに強固な根拠提供が可能となるわけです。
 そして、ビッグデータ。これは多くを語る必要はないと思いますが、スマートフォン、インターネット、SNSなどを通じて人々の動きやビジネスの流れをつかむデータが刻々と手に入るわけです。こういったデータは、計画-実行-評価-改善、いわゆるPDCAサイクルの各ステップで活用されることになります。まさに、企業活動は、データに基づいて行われているのが現状です。
 マーケティングの面では、たとえば、人の流れを見ることを例にとると、狭いエリアで人はどう流れているか(例:商店街の人の流れに基づく店舗配置計画策定)、広域でみると人はどう動いているか(例:外国人の訪日旅行=インバウンド戦略立案)といったことは、小売りや観光における貴重な資料となりますね。
 気を付けることは、それぞれのデータがもつ特徴をしっかりと把握して使うことです。

そのなかで、データサイエンティストの役割は、今後どのようになっていくとお考えでしょうか。

 ビジネスの世界では、データ分析やITのスキルに加えて、戦略を提案できる力をもった人(=データサイエンティスト)が、いま、まさに注目されている職種です。上記の2つの質問に対する回答からも、データサイエンティストの必要性は十分おわかりいただけると思います。しかし、「地方」や「地域」を考えたとき、すぐに、プロフェッショナルなデータサイエンティストが必要かというと、そうではないと思います。地域の中で活躍できる人、組織の中のデータを活用できる人を育てることがまず必要と考えます。データを大事にする心をもち、データを基にした動きのできる人、すなわち「地域データサイエンティスト」あるいは「市民データサイエンティスト」とでもよぶべき人材の育成で、私どもデータクレイドルが目指す大きな柱の1つでもあります。データに臆せず向かっていく、単純集計から分解や比較へと分析手法をアップさせる、そういったボトムアップが地方の会社や地域を押し上げていくことになります。データに対する態度の裾野を広げるといってもよいでしょう。こういった「地域データサイエンティスト」「市民データサイエンティスト」がこれからの社会を支えていくうえで必要であると考えています。

大学での学びに必要なこと、社会に出る前に身に着けるべき素養とはどのようなものだとお考えですか。

 まず、グループの中でお互いに補い合うチームワークを実践する力です。一人で全てのことをこなすオールラウンダーになることはできませんし、社会もそれを望んではいません。その時に、チームワークが重要となります。そのためには仲間とコミュニケーションを図ることが重要です。
 とはいえ、何か一つぐらいは自分自身の「武器」を持ってほしいと思います。それにより余裕が生まれます。たとえばプログラミングなら、この言語であればできるといったように、自分の得意な「型」を身につけることが大切です。その方法として、自分の趣味を生かすという手もあります。趣味を余暇・余技で終わらせるのではなく、それを大学時代に突き詰めれば、やがてそれが人に負けない「武器」になることもあると思います。
 そして、プレゼンテーションの力。これはぜひ欲しいですね。与えられた場で自分が思っていることを的確に表現できる学生は、自分がもっている実力以上のものを見せることができます。そのためには場数を踏むこと。一生懸命に汗を流した経験は後で生きてきます。

最後に、私どもの新しい経営学部への期待、または注文があればぜひお聞かせください。

 貴学の経営学部はマーケティングをベースにデータサイエンスを学ぶ、いわば文系志向の学生さんが多い学部だと聞いています。もちろん、数学や統計学を駆使するような本職のデータサイエンティストになるのも良いのですが、文系の皆さんは、将来社会に出たときに、日々の業務のなかで生じる問題もデータ分析によって解決できるのではないか、といった「気づき」が得られるような感性を養ってもらうのがよいのではないかと考えます。もちろん、そこにデータ分析力があれば最高ですが、データ分析のツールがどのような場合に使えるのか、新しいことを生み出すためにどんなデータ分析が使えそうか、そういった視点や知識があれば十分だと思います。あとは、データ分析の専門家に任せればいいのですから。学部への注文としては、そうした感性や気づきを培うためのワークショップやセミナーをできるだけ開催して、学生が経験を積む機会をどんどん与えて欲しいと思います。
 大学生活の4年間というのは、人生のなかでも余裕がある時期です。自由に時間が使えるのですから、そこで幅広い視野をもつことができるよう、ぜひ様々なことに積極的にかかわってみてください。

お忙しいなか,ありがとうございました。


新免 國夫 (しんめん・くにお) http://d-cradle.or.jp/
・一般社団法人データクレイドル 代表理事
・岡山県高度情報化顧問
・おかやまIoTコンソーシアム 副会長
1945年生まれ。1971年岡山県庁に入庁後、企画部情報管理課や情報政策課長など、主として情報処理にかかわる部署を歴任、その後IT戦略推進監として情報処理システムの開発や岡山情報ハイウェイの企画等などに携わる。退庁後も岡山県高度情報化顧問を務めて後進の指導にあたる一方で、民間の立場からデータ活用による地域活性化や電子自治体推進に向けた提言などを行っている。2015年一般社団法人データクレイドル設立。

※ 所属、役職等は、取材当時のものです。

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