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清野 聡、栗山晃一

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マーケティングは企業活動のすべて
消費者との接点をプロデュースする

Leaders Interview

マツダ株式会社
清野 聡(せいの さとし)

Leaders Interview

株式会社ユー・エス・ジェイ
栗山晃一(くりやま こういち)

今回のLeaders Interviewは、企業の第一線で活躍されている方お二人に、対談の形で、お話を伺いしました。お一方は、テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」を運営する(株)ユー・エス・ジェイの栗山晃一氏、もうお一方は、クリーンディーゼル、マツダデザインなどで評価されるマツダ(株)の清野 聡氏です。2016年7月6日、現場の目線で、マーケティングとデータサイエンスについて語っていただきました。

まず、はじめに、いまのお仕事の内容を簡単にご紹介ください。

栗山 いまの主な業務のひとつは、ゲストを集客するためのプロモーション活動です。私たちはシーズン毎やアトラクション毎にプロモーションを展開しているのですが、それらの集客戦略やプロモーション戦略の立案、プラン実行に責任を持っています。
具体的には、どこの地域のどのような属性のゲストを集客するのかを定め、集客のためにどのようなプロダクト(イベントやアトラクション)をどのようなコミュニケーションで訴求するのかを考え、実行していくというような業務です。わかりやすい成果物としてはいわゆるTVCMやPR、Webでのプロモーションといったものです。
ただ、おそらく他の企業、特に日系企業のマーケティング業務と異なる点として、単に、開発されたプロダクトの広告を作るだけであったり、プロモーション・プラン一式を広告代理店にお任せするだけのような業務ではないという点です。たとえば、プロダクト開発の起点となる市場・消費者理解は私たちの担当業務であり、私たちプロモーション・チームが、どのような方向性のプロダクトが必要かを明確にした上で、プロダクト・チームに開発を依頼したり、開発プロセスで意見を言っていったりします。つまり、消費者にどのようにコミュニケーションすればよいのか考えるだけでなく、そもそも誰にどのような価値を消費者に届けるべきなのかを考え具現化していくことにも責任を負っています。また、そういった意味で、広告代理店にも、広告作りの戦略からお任せするのではなく、私たちがどのような広告を作りたいかを明確に練りお伝えしたうえで、一緒にクリエイティブを開発していくような進め方をしています。
その他、中期的に集客を拡大していくための戦略立案や、パーク内のサービス開発など、業務は多岐に渡っていて、毎日忙しく動いています。

清野 私は車の商品企画という仕事をしています。商品企画という仕事を簡単に言うと、次の新しい車はこんな風な商品にしようというのを考え、社内の関係部門に対して伝えるとことです。関係部門というのは多岐に渡ります。設計する人たちばかりでありません。デザインをする人、車のテストを行う人、工場で車を作るのに携わる人、部品をサプライヤーから買ってくる人、販売やマーケティングする人、お金の計算をする人などです。ところで、いきなりどんな車を作るかを考えるわけではありません。世の中の動向はどうなっているか、どんな車が売れているか、若者に人気のある車はどれか、人々の好みの移り変わりはどんな風か、それらの理由は一体どんなことか、これから先はどうなると考えられるか、などなど、新しい車を考える前にいろいろと知っておくことがあるわけです。その上で、どんな層の人たちにどんな価値を訴求していくか、こういったことを考えるために、さまざまな情報を集めたり、お客さまに直接話を聞いてみるなどして、しっかり頭に入れます。それがとても大切になります。そして、ようやく次の新しい車はどんな風にするのかを考えるわけです。これは、もちろん必要になったとき、必要な情報を集めたりしますが、常日頃からいろいろなことに興味関心をもち、常にアンテナを張った状態にしておきます。そのときになって初めて考え始めるのではなく、日々の積み重ねが大切となります。その情報も、設計の人や生産の人、マーケティングの人などが仕事をするために必要な情報になるまで具体的に詰めていきます。

では、いま、社会で求められていることは何かをお聞きしたいと思います。経営やマーケティングとからめて、お聞かせください。

「経営者マインド」と「マーケティング・スキル」が求められている

栗山 いま、企業社会では、「与えられた課題をきちんとこなせる人材」ではなく、自ら課題を見つけ出し、それを解決するために考え・行動できるような、自立した人材が求められているのではないかと感じています。成熟したいまの企業社会では、誰かの物まねを上手にするだけでは成長はなく、消費者をきちんと理解し、自ら新しい価値を創り出し、世の中に提案していけるかどうかが、社会に役立つ存在として生き残り、成長していくために必要になっているのではないかと思います。そういった企業であるためには、結局は従業員ひとりひとりがいかにそのような価値を産み出していけるかにかかっており、その意味で、自立した、自らビジネスを作り出していけるような経営者マインドをもった人材が強く求められていると思います。
実際、私たちの職場でも、クルー(従業員)にそういったマインドセットや行動が求められています。具体的には、「リーダーシップ」と「戦略性」です。「リーダーシップ」というのは、単に何かのリーダーになる、ということではありません。自らの担当領域において、自ら起点となって、ビジネス課題やビジネス機会を見つけ出し、その解決のためのプランや実行を、関係者を巻き込みながら自ら推進していくような行動のことをいいます。また、「戦略性」とは、そのような一連の行動の中で、いかに消費者を深く理解し、戦略的に有効なプランを立案できるのか、いかに戦略的に物事を進めていけるのか、といったことです。そういった、「自ら起点となって、関係者を巻き込みながら、戦略的にビジネスを伸ばしていくためのアクションをとっていける」という、シンキングや実行力が、私たちの職場では求められています。おそらくこれからの社会では、同じように、ひとりひとりが自らビジネスをつかさどるんだという「経営者マインド」と、社会に対して具体的に価値を創り出し提供していくための「マーケティング・スキル」をもった人材が強く求められていくのではないかと思います。

消費者のことをしっかり考え抜く

清野 経営やマーケティングというと、企業が生き残っていくために何をしなければならないか、ということを考えるものだと思いがちですが、それは一面しか表していないと思います。日本も昔は高度経済成長時代でしたら、物を手に入れることがとても大きな意味があったので、新しい商品を出せば売れるという状況でした。企業が一方的に良いと思ったものを消費者に提供するということで、大きな問題はなかったかと思います。しかし、いまそんなことをしていては全然売れません。物を買う喜びは薄らいで、本当に必要なものは何かという目が厳しくなっていますから、電気製品なんかでよく見られる価格競争に巻き込まれることになります。そうなると、企業にとっては一大事です。どんどん売れる価格が下がっていくわけですから、利益がどんどんなくなっていく。一生懸命時間とお金をかけて新しい商品を作ったのに、安い値段でしか買ってもらえない。そうならないように、消費者の立場になって真剣に物事を考えなきゃいけない。かといって、消費者がこんなものを欲しいと言ったからといって、そのまま作っていればいいという訳じゃない。もっと言葉の奥にあるもの、言葉にできないことを汲んで理解しないといけない。いままでのやり方に囚われるのではなく、必要ならどんどん変えていかないといけない。そういったことを躊躇せずにやっていける、そんな人が求められているんだと思います。企業内部の論理ではなく、消費者のことをしっかり考え抜いて、必要なアクションを起こす・・・マーケティングはそのための道具であり、そういったことができる人が求められていると思います。

次に、お二人の現在のお仕事内容において、「マーケティング」や「データサイエンス」の役割や大切さについて、どのようにお考えでしょうか。

マーケティングは企業活動の核であり根幹である

栗山 マーケティングは、企業活動のコア(核)といいますか、企業活動そのものといっていいくらい、企業にとって最も重要なものだと理解しています。私たちにとってのマーケティングは、「売れる(集客する)仕組みや売れる(集客する)必然を創り出すこと」であり、要は、ゲストが欲しい(体験したい)と思うものを創り出し、コミュニケーションし、来場いただく、といった一連のアクションすべてをマーケティングと定義しており、それはすなわち、私たちの企業活動の(ほぼ)すべてであり、社会での私たちの存在価値をアウトプットするための活動(ほぼ)すべてです。
マーケティングというと、一般的には、広告宣伝とかPRとか、市場調査とか商品開発といったキーワードで捉えられることもあるかもしれませんが、本当の意味でのマーケティングとは、少なくとも私たちにとっては、そういったものは手段でしかなく、「ゲストにいかに価値のある体験を提供し来場いただくかを考え、実行すること」すべてがマーケティングなのです。

清野 私たち製造業にとっても、物作りとマーケティングは、根幹をなすとても重要なものです。特に、マーケティングは、消費者との接点をプロデュースする、そんな役割をもっています。これは、もちろん広告・宣伝や販売店といったものもありますが、実際に価値を伝えていく商品やサービスもその一端を担います。つまり、どんな商品を作ればよいか、どんなサービスをすればよいか、それを指南してくれるのがマーケティングだと思います。言わば、消費者が幸せになるために企業が何をすればいいかを教えてくれるのがマーケティングなのではないかと思います。だから、これ抜きで企業の活動を考えることは、消費者のことを何も考えないに等しいということになります。

データサイエンスは強力なツール:「科学的」に考えることは必須

栗山 データサイエンスについては、私たちがマーケティングを実行するにあたり、極めて強力なツールであり、今後、ますます重要かつなくてはならない領域になっていくと思っています。マーケティングの神髄は、「消費者の行動や心理をいかに深く的確に理解できるか」だと思いますが、マーケティングの成功確率をあげるためには、単に曖昧な理解ではなく、「科学的」にその理解が正しいと証明されることが求められます。そのために、消費者の行動や心理をデータ化し、統計的な処理等をしながら、その正しさを導出し、最適な戦略への示唆を与えてくれるデータサイエンスというツールはとても重要です。
また、Web上で、デジタルなコミュニケーションや消費行動が広がり、人々の活動が膨大なデジタル情報として捉えられるようになってきた現在、そのビッグ・データを最大限活用して、さらに深く消費者を理解しようというデータ・マイニングなどの流れがあることは、とても自然な流れだと思っています。実際、私たちの業務においても、その活用にトライし始めています。
私たちはもともと、データサイエンスをそれなりに重視してきた企業だと思っていますが、従来の調査・分析手法では、ゲストの本当に欲するものや足りていないものは何かを探るにも、どうしても、事前に想定できる仮説の範囲での消費者理解に留まってしまいがちでした。しかし、膨大なビッグ・データから、私たちの想定を超えたゲストの動きやその背後にある価値観や心理を探り出すデータ・マイニングのような新たな手法は、これまでにない新たな示唆=ゲストへの新たな提供価値の種を与えてくれるという意味で、とても強力なツールになっていくのではないかと思っています。

清野 そうですね。データサイエンスは、マーケティングを大きくサポートしてくれるものといえます。いまやいろいろなところに情報がありますし、すべて人力に頼った情報の収集や分析には限界があります。ビッグ・データから、いかに正しい事実をつかみ取り、それをマーケティングに役立てるか、そのためには、やはりサイエンスの力が必要です。客観的でありながら、深い洞察をするために、科学的なアプローチは必要です。いまのような多様化した時代には、埋もれたデータから自分たちに必要なダイヤモンドを掘り当てることがとても重要だと思います。かつては、それを人間が観察したり、話を聞いたりして、アナログ的に収集して、自分たちの知見としていたわけですが、さまざま情報がある時代、科学の力を借りて、それらを最大限に活かすことが大事なのではないでしょうか。もちろん、それらをどう咀嚼するかという人間の力が必要なことは言うまでもありません。

いまの大学での学びで大切なこと、あるいは、いまの大学生に求められるものは何だとお考えですか?

「わかる」だけでなく「できる」ように

栗山 まず、前提として、教科書に書かれている学問的な内容の理解・習得は、とても大事です。特に経営やマーケティングといった実学的な学問ではそうです。教科書の内容は、過去の先人・先輩達が実社会で活躍したり、社会を観察したりしながら積み上げてきた真理であり、とても有益で重要な示唆の集合です。実社会で働いている私たちが、実際に教科書を読んでハッ!とする気づきを得たり、実務の参考にしたりしているのがその証拠です。
ただ、それでもやはり、教科書で学ぶ座学だけでは、本当の意味でその内容を理解・習得するには難しいという現実はあります。「わかる」と「できる」はまったく違うからです。泳いだことがない人が、いかに教科書で正確に手足の動かし方を理解したとしても、いきなりプールで泳ぐことはできないのと同じです。そういった意味で、これから社会に出て実際に活躍することを念頭に学ぶ大学でも、「わかる」だけではなく、「できる」ようになるための学びがあることはとても重要だと思いますし、その学びを得られた学生というのは、実社会において、とても価値のある人材になると思います。
そのような人材になるための訓練となる講義があれば最高ですね。学問として学んだ知識を駆使してアクションを起こせる人材を育成する、すなわち、知識を駆使し、考え・行動していくのに必要な、人とうまく協業できるコミュニケーション能力やチームワーク、アクションを考え抜くための理系や文系といった枠にとらわれない柔軟で豊かな発想力や思考力、また、その方法論といったことを、「身をもって」学び、「できるようになれる」カリキュラムです。

実際の場面を想像しながら、が大切

清野 経営学を学問として学ぶというのもあるとは思いますが、やはり実践でいかに役立てることができるかというのが大切になると思います。大学で学ぶ際には、実際の場面を想像しながら、いま勉強しているものをどう生かすか、そういった考えをもって学んでもらえると、より実りのあるものになると思います。そういう習慣がついたならば、それは就職してからも大いに役立つと思います。

最後に、来春開設する「経営学部」やそこで学ぶ大学生に期待することなど、一言いただければ幸いです。

本物の力をもった学生の輩出に期待

栗山 これからの企業社会に決定的に重要なマーケティングとデータサイエンスを深く学ぶというコンセプトは、とても価値があると強く感じています。また、それらを、単なる座学だけでなく、実社会の課題を取り上げ、実際にその課題に直面している社会人とともに考えながら学んでいくというスタイルは、最も有益な学び方だと思います。学生にとっては、絶好のカリキュラムであり、ある意味、とても贅沢なカリキュラムです。おそらく、ここで学んだ学生は、その価値を社会人になってからも実感し続けることになるでしょう。この先進的な試みが成功し、世の中をより良く変えていくエンジンになる優秀な学生さんが数多く輩出されることを強く期待しています。

清野 マーケティングとデータサイエンスの両面から学べる大学はなかなかないと思います。通常理系か文系に分かれてしまいますが、現実の社会はどちらでもなく、両方とも重要となります。そんな実践力のある学生さんをこれからたくさん世の中に送り出して欲しいと思います。

本日は,お忙しい中,ありがとうございました。


清野 聡(せいの さとし) 1993年マツダ株式会社入社。企画畑一筋。デミオ、ロードスターなど各車商品企画を担当する。現在、商品企画部主幹。

栗山 晃一(くりやま こういち) 銀行勤務を経て、2000年、株式会社ユー・エス・ジェイに入社。テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」オープン時から、マーケティング領域の業務に幅広く従事。現在、マーケティング部マネージャー。

※ 所属、役職等は、取材当時のものです。

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