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村松潤一

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経営はアートであり
クリエイティブ。
それを実現するのが
マーケティング

Leaders Interview

広島大学大学院社会科学研究科
村松潤一(むらまつ じゅんいち)

マーケティングのLeaders Interviewは,広島大学大学院社会科学研究科教授の村松潤一先生です。企業と顧客のサービス関係(直接的な相互作用関係)に基づく価値共創の視点から、企業システムをどのように構築し、実践に落とし込むか、その第一人者であられる村松先生に、これからのマーケティングとその役割について、2016年3月29日にお話しを伺いました。

まず,いまの社会で求められている重要なことは何か,経営やマーケティングとからめて,お考えをお聞かせください。

これまでのマーケティングは、市場での取引に注目

この質問に答える前に、まず、これまでの経営やマーケティングの関心がどこにあったのかについて述べましょう。人間を中心とした社会の構築については、これまでも社会科学の立場から、いくつか提示されてきましたが、いまだ実現していません。なぜでしょうか。それは、私たちの社会が、経済学でいう「市場」を中心にした考え方に基づいているからです。
市場は、売り手(企業)と買い手(消費者)が取引を行う「場」ですが、企業は、よりよい取引を完遂するために、事前にさまざまな準備をします。それが、企業の経営です。しかし、一度、取引が成立してしまうと、消費者との「その後」については、あまり関心をもちません。つまり、経済学が描いた市場概念のもとで、企業のヒト、モノ、カネ、情報、組織を市場に向けて最適化することを考えてきたのが経営学です。言い換えるなら、経営学の関心は、その生成の経緯からみても、企業内部の効率性を如何にして高めるかということにありました。一方、こうした経営学と対照的に、企業と消費者との関係という、いわば企業の外に関心をもってきたのが、「マーケティング」です。
マーケティングは、消費者が求めているものは何かを明らかにし、そのニーズを満たすモノやサービスを開発・生産し、いかにして市場で販売するかを考え、実行するものです。もちろん、これはマーケティングが経営学よりも大切であるということを言いたいわけではなく、マーケティングと経営学は密接な関係にあり、どちらも重要であることは言うまでもありません。

これから求められるのは、心の豊かさ

しかし、これまでのマーケティングにおいては、市場取引が注目され、消費者が製品やサービスをどのように利用しているかについては、一部の企業を除き、それほど注目してきませんでした。これからのマーケティングや経営を考えていく上で必要なのは、社会の主役が、私たち人間にあること、そして、人間が、いつ、どこで幸せになるかを今一度、認識することです。
この点、興味深い調査に、内閣府の「国民生活に関する世論調査」があります。それによれば、すでに国民の多くは、物より心の豊かさを求めています。具体的に言えば、1978年に後者が前者を上回り、2014年には、63.1%もの人びとが心の豊かさを求め、物の豊かさを求める割合は31%にまで低下しています。
そうです、多くの人々は、モノやサービスではなくココロの満足を求めており、それは、市場でモノ・サービスを「買うとき」ではなく、むしろ、日常の生活の中で、それを「使うとき」に幸せに思うのです。
しかし、残念ですが、こうした成熟社会で人々が求めていることに、企業は、対応できているとは言えません。というのも、すでに述べたように、これまでのマーケティングは、消費者に買ってもらうまでしか、つまり取引までしか、みていませんでした。
このように考えれば、これからのマーケティングにとって重要なのは、取引後、モノやサービスの使用や利用に注目することであると言えるでしょう。

確かに、最近「マーケティング」という言葉を良く耳にします。なぜ今、マーケティングが注目されているのでしょうか。

マーケティングこそが人々の幸せを実現させる

繰り返しになりますが、これまでのマーケティングは、市場がゴールでした。しかし、内部志向の経営学とは違い、市場の消費者に最も近く、また、強い関心をもってきたのがマーケティングです。その意味からすれば、人々の幸せを実現するのに、非常に大きな可能性をもっているのがマーケティングなのです。そして、新しいマーケティングの考え方が生まれつつあるのも事実です。

新たなマーケティング:消費者の「使う」現場に入り込む

では、どのようにマーケティングの考え方を進化させたらよいのでしょうか。
それは、販売後にもマーケティングに関心を置くことから始まります。言い換えれば、買ってもらうだけではなく、消費者が使う段階においても、マーケティングを行うことです。このことは、マーケティングにおいて、きわめて大きなパラダイムシフト(考え方、あるいは規範や価値観が大きく変わること)といえます。ここで注意しなければならないのは、新しいマーケティングは、これまでのマーケティングに取って変わるものというよりも、これまでのマーケティングの領域を拡大するものであるということです。つまり、新しいマーケティングは、これまでのマーケティングを包含する存在であると言えます。
新しいマーケティングでは、企業は、販売後にも、消費者との直接的なやり取りを通じて、消費者の幸せを手助けします。こうした企業と消費者の新しい関係こそが、これからのマーケティングの世界であり、そこで重要なキーワードとなるのが、「価値」や「サービス」なのです。

マーケティングにおける「価値」や「サービス」の重要性について、どのようにお考えでしょうか。

消費者が決める価値こそすべて

新しいマーケティングが注目するのは、消費者が決める価値です。価値は、消費者の欲求を満たすものすべてです。重要なことは、それが、いつ、どこで、誰に、どのようにして創られ、判断されるかということです。これまでのマーケティングは、企業が価値を決め、事前にその価値をモノに埋め込み、消費者がその価値を市場で判断する、という考え方でした。

価値は消費者の日常生活で創造される

しかし、先ほどお話ししたように、今日、人々は心の豊かさを日々の生活の中で感じるのであり、そこで、価値が創られていると考えられます。人々は、単独、あるいは共同で価値を創り出します。言い換えれば、ひとりでは価値を生み出せないときに、家族や友人、企業の力を借りるのです。したがって、今日、市場ではなく、日常という時空間で、企業は消費者と直接的な関係を構築することが求められているのであり、ここに、新しいマーケティングの世界は存在しています。
そして、そこでの企業と消費者は、お互いに協力し合う関係となるわけで、両者が対峙する市場とはまったく異なっています。それは、「サービス」といわれる関係でもあります。

サービス=価値創造を手助けすること:サービスはおまけではない

一般に、サービスは、モノに付帯するものとして捉えられてきましたが、そうではありません。サービスは、消費者に求められて企業が与える行為であり、プロセスなのです。そして、その中身は、消費者、ひとりではなしえない価値の創造を手助けするものとなります。もし、ここで、求めるものがモノであれば、消費者は、市場で買えばよいのであり、そのことからも、サービスとは、モノと同じように扱われるものではなく、企業が消費者に与える行為、プロセスであることがわかります。したがって、サービスは、企業と消費者の相互作用の中で生まれるものであり、極めてオーダーメイド的なものであるといえます。これこそが、新しいマーケティングと言えるのです。

新しいマーケティングに情報技術は欠かせない

そして、今日、それを可能にするのが、情報技術です。最近、IoT(Internet of Things)という言葉が話題になっていますが、これまでお話ししてきたことを踏まえれば、インターネットはモノではなく、人間に繋がるべきであることがわかります。より正確にいえば、人間の行為に直接繋がることで、企業は相互作用的に、人々の日常の生活を「共に創り上げること」(共創)ができるのです。
このことからすれば、実は、人間は、消費者というより、価値創造者、つまり、自身の生活、人生を創り上げていく人々なのです。残念ながら、これまでの経済学、経営学が焦点を置いてきた市場は、人間にとっては、単なる手段にすぎないのです。なぜなら、市場は、ひとりで価値を創造したり、企業と価値を共創したりする際に、モノが必要になったときに買う「場所」でしかないのです。
言い換えれば、経済原理ではなく、社会原理にもとづいて価値の共創や、人間とのサービス関係を構築していくものが新しいマーケティングなのです。 マーケティングに情報技術は欠かせない

最後に、来春、本学で開設予定の「経営学部」やそこで学ぶ大学生に期待することなど、一言いただければ幸いです。

新たな社会を切り開くビジネス・クリエイターの育成

結論から言えば、これまでの経営学部が教えてきたのは、実は、管理学でした。これは、何らかの枠、つまり、企業という組織の中でヒト、モノ、カネ、情報、組織を目的達成のために最大限に効率的に運用していこうというものでした。
もともと、経営と管理とは違います。管理は、経営が示した方向性、枠組みのもとで生産性や効率性を考えるものです。したがって、経営の導きがなければ管理はありません。つまり、企業にとって本当に重要なことは、経営です。まず、優れた経営があって、それから、管理の問題が生まれるのです。それ故、管理は、何をすべきかを最初から与えられます。そして、それは、データを分析することでその多くが解決できます。データサイエンスがなければやっていけない領域であると言えます。
しかし、経営は、社会との関わりの中であるべき姿を考えるものであり、アートであり、クリエイティブなものと言えます。その意味で、著名な経営者の高い志を学ぶべきです。とはいえ、それだけで、新しい経営が生まれるわけではありません。求められるのは、人間を中心とした社会を企業という仕組みをもとに如何に創り上げるかの能力であり、それは、まさに、ビジネス・クリエイターと呼べるかも知れません。
経営学部では、そうした、新たな社会を切り開く企業人材の育成を行うべきだと考えています。つまり、また、そのことを大学生に理解してもらいたいと思います。

仮説導出、仮説検証の双方が学べる教育を

これを学術的にいえば、仮説導出型の教育ということになります。つまり、新たに描かれた世界を理論的に捉えるのは、まずは、仮説を作り出すことから始まります。これは、新しい経営学部にとって、こうした質的研究や教育は極めて重要であることを意味します。したがって、センスのよい仮説を導出するためのプロセスを学ぶ必要があります。
しかし、実際の経営では、仮説を導出するだけでは不十分であり、その仮説を科学的に検証することが求められます。つまり、仮説導出と仮説検証の双方のプロセスの考え方や手法を体系的に学ぶことができる場を提供することが、今後の大学教育に求められているのではないでしょうか。
その意味で、実際の組織が抱える問題を題材にその解決を目指すという新学部の演習科目「イノベーション・ラボ」には期待しています。なぜなら、問題とは既に存在するというよりも、作り出すと表現した方がよいからです。チームでのディスカッションや調査という過程を通し、あることが「問題」になり、それを解決するという一連の取り組みは、まさに仮説導出・仮説検証という行為であり、これらを企業人や大学教員から直接学べるということは、貴重だと考えます。

本日は,お忙しい中,ありがとうございました。


村松潤一(むらまつ じゅんいち) https://www.jmura.info/
博士(経営学)。
広島大学大学院社会科学研究科 教授
東北大学大学院経済学研究科博士課程後期修了。公職として、日本商業学会理事、アジア市場経済学会会長等を経て、現在、日本マーケティング学会理事、日本消費経済学会理事、日本経済学会連合評議員、特定非営利活動法人グローバルマネジメント研究センター理事長。著書に, 『ケースブック 価値共創とマーケティング論』(編著、同文舘出版、2016年)、『価値共創とマーケティング論』(編著、同文舘出版、2015年)、『経営品質科学の研究-企業活動のクォリティを科学する』(共著、中央経済社、2011年)など、多数。

※ 所属、役職等は、取材当時のものです。

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